世界のナベアツを観て泣いた

 もう10年以上前の話だけど、世界のナベアツさんが人気でよくテレビに出ていた頃、私は彼のギャグで泣いた。

 若い子は、世界のナベアツと聞いてもピンとこないかもしれないから、彼のギャグを簡単に説明すると「3の倍数と3の付く数字の時だけアホになります」と言って、1から順番に数字を数えていき、3の倍数と3の付く数字の時だけアホになるというものでした。1、2、さぁーん!って感じです。詳しくはYouTubeでも観てください。

 当時はこのギャグが流行っていて、しょっちゅうテレビでもやっていました。はじめのうちは特に何も思わず観ていたのですが、ふと「この人はなんで3の倍数の時だけアホになるんだろう」と考えているうちに、なんだか笑えないどころか悲しい気持ちになってきました。

 きっと、彼は自分でもコントロールできない、ある種の大きな力によってアホにされているんだろうと思いました。だって、そうでもなければ、こんな変なことになるはずがないんですから。

 そのことに気がついてから、私は折に触れて世界のナベアツさんのこれまでの人生を想像し、彼に同情しました。ナベアツというニックネームから想像するに、彼の本名はワタナベアツシでしょう。ワタナベということは、小中学校ではおそらく出席番号が30番代だったはずです。ということは、出席番号を口にするたびにアホになってしまいます。

 入試やテストでは、選択肢が③であるたびにアホになり、受験番号に3が付いているだけで、もうその日の試験は絶対に不合格です。3日、13日、23日、30日、31日は1日中アホですし、3月なんか1ヶ月の間アホです。

 もっと酷いのは13歳の時で、1年間アホです。もっとも、男子中学生というのは人生で最もアホな期間なので、さして問題ないかも知れません。ただ、30代の10年間をアホのまま過ごすというのは、人生において信じられないハンディキャップだったと思います。

 仕事だって、数字を使う仕事はできません。どんな仕事だって、多少は数字に触れてしまいます。そのどこかに3という数字があっただけで、世界のナベアツさんは社会人失格のアホになってしまうわけです。

 きっと、そういう事情もあって、数字を数えてアホになる瞬間を見せ物にする芸能の仕事を選ばざるを得なかったのでしょう。そんな彼の生い立ちに想いを馳せ、私は彼を観て泣いたのでした。

(実は、私も2日酔いという病を患っていて、毎月2日は酒を飲まずとも1日中酔っ払ってしまうのです。最初は「2日酔いが酷くて…」と言っても周りに理解してもらえず大変でした。この文章も酔っ払いながら書いていますので、多少変なところがあったかもしれません。)